図1に示すような片持ちはりの先端の変位量をモチーフとして,1次要素と2次要素の計算精度の違いを説明します。片持ちはりの寸法は(1)式,ヤング率Eと荷重Pは(2)式の値とすれば,先端の変位量は先端に荷重がかかる片持ちはりのページで述べたように,0.8 [mm]となります。
比較のために使用した要素は,表1に示すように,四面体1次要素,四面体2次要素,六面体1次要素,六面体2次要素です。1次要素は剛性マトリクスを求める際の積分点数を減らさない完全積分を,2次要素は積分点数を減らした低減積分を選択しました。完全積分と低減積分の比較はせん断ロッキングのページで述べます。
四面体要素の要素分割を図2に,六面体要素の要素分割を図3に示します。
図4に計算結果を示します。図4で四面体2次低減積分と六面体2次低減積分のプロットは重なっています。図4に示すように,四面体1次完全積分では要素分割を板厚方向に8分割しなければ先端の変位量ははり理論の解である0.8 [mm]に近づきません。また,六面体1次完全積分では要素分割を板厚方向に4分割しなければ先端の変位量は0.8 [mm]に近づきません。一方,四面体2次低減積分,六面体2次低減積分では,板厚方向要素分割が1分割で先端の変位量が0.8 [mm]になります。
このように1次要素と2次要素では,計算精度に大きな違いがあります。もはや1次要素は時代遅れの要素になっていますので,2次要素の積極的な使用を勧めます。次に,計算精度に大きな違いがある理由を考察していきましょう。
片持ちはりの先端の変位をモチーフとした比較では,1次要素の計算精度が悪く,2次要素では良いものでした。この理由を応力分布を使って説明します。
図5に片持ちはりの曲げ応力(x方向応力)の分布を示します。応力は直線的に変化し,(3)式で示したようにy軸に対して1次式で変化します。ここでσxはx方向応力,Mは曲げモーメント,Iは断面二次モーメントです。
四面体1次要素は,要素内の変位を(4)式(1次式)で仮定しています。これを変位関数と言います。x方向のひずみεxは変位を座標xで偏微分したもので(5)式で表されます。(5)式を見るとεxは定数a2です。つまり,ひずみは要素内で一定値となります。応力はひずみにヤング率を掛けたものなので応力も要素内で一定値となります。
片持ちはりでは応力がy軸に対して1次式で変化するのに対し,1次要素では要素内で応力とひずみが一定値です。1次要素では片持ちはりの応力や変位を表しきれていないのです。よって,片持ちはりの応力を求めるためには板厚方向にたくさん要素分割する必要がでたのです。以上が,1次要素を使った場合に解析精度が悪かった理由です。
四面体2次要素は,要素内の変位を次式(2次式)で仮定しています。x方向のひずみεxは変位を座標xで偏微分したもので(7)式で表されます。(7)式を見るとひずみεxはx,y,zの一次式で変化します。応力はひずみにヤング率を掛けたものなので応力もx,y,zの一次式で変化することになります。
応力がy軸に対して1次式で変化するのに対し,2次要素では要素内で応力とひずみも1次式で変化します。2次要素では片持ちはりの応力や変位を表すことができているのです。よって,片持ちはりの応力を求めるためには板厚方向の要素分割が1要素で済んだのです。以上が,2次要素を使った場合に解析精度が良かった理由です。
図6に円孔がある板を引張ったときの応力分布(要素解)を示します。図6の左図は1次要素による解で要素内の応力が一定値で解析精度が悪いことがわかります。図6の右図は2次要素による解で要素内で応力が1次式で変化しますので解析精度が良いことがわかります。
図7に円孔がある板に引張り荷重が作用する場合について,要素分割数を変化させたときの最大応力を示します。
1次要素,2次要素ともに,要素分割を増やすに従って解析解が厳密解に近づいています。
要素分割を細かくしていったら,有限要素法による計算結果が本当に真の値に近づくかどうかには興味があります。真の値に収束する変位関数((4)式や(6)式のことです)の条件は,文献1)によると以下のようになります。
1.節点変位が剛体変位の条件を満足するような場合に,要素内部でひずみを生じないこと
2.節点変位が一定ひずみ状態に与えるようなものであれば,変位関数は要素内において一定ひずみ状態を与える
ものであること
3.変位関数によって計算されるひずみは,要素と要素の間の境界面上で有限であること
(4)式,(6)式は上記条件を満足していますので,1次要素,2次要素ともに,要素分割を細かくすると計算結果は真の解に近づきます。
一方,市販されている有限要素法ソフトの要素は,解析精度をより向上させる工夫や低減積分を選択したときのアワーグラスモードを防止するための工夫が施されています。そして,これらの工夫の詳細は公開されていませんので,上記3条件が満たされているかどうかもわからない状況です。よって,本サイトでは「要素分割を細かくすると,計算結果は真の解に近づくことが期待される。」と表現することにします。
1)O.C.ツィエンキーヴィッツ,基礎工学におけるマトリックス有限要素法,吉識,山田 監訳,(S50)
仮想仕事の原理 を追加しました。