き裂状の切欠を持つ部材が疲労破断するかどうかは,公称応力ベースの疲労評価をするか線形破壊力学を利用するかになります。最初からき裂状の切欠を持つ部品なんてあるのかと思われるかもしれませんが,未溶着部があるすみ肉溶接や直角の角をもった部品が樹脂モールドされている場合などが相当します。図1にその例を示します。ここでは線形破壊力学を利用して,き裂が進展するかどうかを予測する方法を説明します。
まず応力拡大係数範囲ΔKを求めます。ΔKは次式で定義されています。
Kmaxは繰返し荷重の1サイクル当たりの応力拡大係数の最大値,Kminは1サイクル当たりの応力拡大係数の最小値です。応力拡大係数の計算は有限要素法の出番ですね。
応力拡大係数範囲ΔKが下限界応力拡大係数範囲ΔKth(threshold value of stress intensity factor range)より小さければ,き裂は進展しないという考え方です。疲労破壊しない条件は次式です。
高い応力比(R≧0.5)を想定して,鋼(オーステナイト系ステンレス鋼を含む)の場合ΔKth=2.0[MPa√m],アルミニウム合金の場合ΔKth=0.7[MPa√m]としておけば問題ないと思います1)。他の金属では,ヤング率EとΔKthの間には次式で示す関係2)(R=0.8)がありますので,ヤング率さえわかればΔKthが求まります。
(3)式を使う場合は,ヤング率の単位として[MPa]を使用してください。
上記応力比より低い応力比の場合は,ΔKthはより大きな値となりますので,上記値を使っておけば安全側の見積りとなります。
上述した判断基準はき裂が全く進展しないという条件なのでかなり安全側の強度評価となっています。例えば,機械や構造物を定期的に点検できる場合,き裂が進展したとしても,次の点検時に部品を交換したり溶接部を補修したりできるので,次の点検まで機械や構造物がその機能を維持できれば良いという考え方があります。このような場合,あとどれだけの寿命があるか,つまり,き裂がある一定の長さ進むのにどれだけの荷重回数が必要かを見積る必要があります。この計算方法を説明します。
パリス則を使います。次式です。
ここで,da/dnはき裂進展速度,C,mは材料と応力比によって決まる定数です。
応力拡大係数範囲ΔKはその定義から次式で表すことができます。
ここで,Δσはき裂近傍の公称応力レンジ(最大値-最小値),aはき裂長さ,F(a)は補正係数で,き裂部の形状で決まりますのでaの関数としています。
(4)式に(5)式を代入し,変数を分離します。
き裂長さがa1からa2まで進展するのに要する荷重回数Nは次式となります。
(7)式の積分は容易ではありませんので数値積分します。
以上が,き裂進展の有無の判定方法とき裂進展量の予測方法です。
最後に余談ですが,鉄鋼材料ですみ肉溶接の場合は文献3)を参照するという選択肢もあります。
1)A.F. Hobbacher, Recommendations for Fatigue Design of Welded Joints and Components, IIW Collection, DOI 10.1007/978-3-319-23757-2_7
111112)宇佐美,志田,破壊力学による溶接継手の疲労強度評価,圧力技術,20 巻 2号,(1982)
3)(社)日本鋼構造協会,鋼構造物の疲労設計指針・同解説,技報堂出版,(2004)
仮想仕事の原理 を追加しました。