機械や構造物の部品が受ける荷重は,一定な静荷重の場合よりも周期的に変化する繰返し荷重や変化がランダムな変動荷重である場合が多いです。部品に繰返し荷重を加えると静荷重の場合よりもはるかに小さい荷重で破壊します。この現象を疲労と呼んでいます。荷重の繰返し数について104~105回を境として,それより少ない回数で破壊する疲労を低サイクル疲労と呼び,それより多い回数で破壊する疲労を高サイクル疲労ないしは単に疲労と呼びます。低サイクル疲労では部品に作用する応力が降伏応力を超える場合が多く,高サイクル疲労では,降伏応力より低い応力で破壊します。ここでは高サイクル疲労を説明します。
部品に図1のように変動する応力が作用するとき,最大応力をσmax,最小応力をσminとすると,応力振幅σaと平均応力σmは(1)式で定義されています。
高サイクル疲労を議論するときはS-N曲線を使います。応力振幅σaを縦軸に,その応力振幅で材料が破断するまでの繰返し数の対数を横軸にとって示した図をS-N曲線と言います。図2に鉄鋼材料のS-N曲線の例を示します。プロット(〇)は実測値で,実測値は上下ばらついていますので実測値の中央を通って引いた線がS-N曲線です。S-N曲線は生存確率50[%]の値と解釈できますので,S-N曲線の値をそのまま許容応力とすることはできず,ある程度のマージン(安全率)をとって生存確率が100[%]に近くなるように設計します。
測定時の平均応力の値がゼロの場合は,両振繰返し荷重が作用した場合で応力比R(R=σmin/σmax)は-1です。測定時の平均応力が応力振幅と等しい場合は,片振繰返し荷重が作用した場合で応力比Rは0です。両振繰返し荷重(R=-1)によるデータが多いのですが,データを見るときは,Rがいくらだったかに注目してください。
繰返し数が106~107回より少ない場合は,応力振幅を下げると破断までの回数が増えてS-N曲線は傾斜しますが,応力振幅がある値より小さくなると,いくら繰り返しても破断しなくなるのでS-N曲線は水平になります。水平になったところの応力振幅を疲労限度(fatigue limit)と言います。
アルミニウム合金やステンレス鋼では,図3のようにS-N曲線が水平にならず疲労限度が現れません。このような場合,繰返し数(107回や108回)を指定してその繰返し数に対する応力振幅を疲労強度と言います。本サイトでは,疲労限度と疲労強度ひっくるめて疲労強度と呼んでいます。
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