V&Vの妥当性確認工程において解析結果と手計算結果を比較することはとても大切な作業です。実モデルを簡素化し,厳密解,工学式,実験式により求めた代表部の変位,応力,温度,あるいは全体的な固有振動数と,解析結果とを比較します。
解析対象となる問題の答が手計算で求まるならばそれに越したことはありません。しかし,手計算で求まらないから有限要素法を使うのですね。手計算で求まらない問題を強引に求めようとするので,問題を大胆に簡素化する必要があります。例えば,はりの曲げ問題に置き換えるようなことをすることになります。
そのため,強引に求めた手計算結果と解析結果の完全な一致は期待できません。手計算結果と解析結果のオーダーが一致していたら良しとしましょう。
簡単な例となりますが,手計算結果との比較例をひとつ紹介します。
図1に示すようなブラケットの先端の穴に荷重が作用し,反対側の4つの穴がボルトにより固定されているとします。このブラケットの荷重点の変位と最大相当応力を求める問題です。
荷重条件と固定条件を図2に示します。先端の穴に下方向に10000[N]の荷重が作用しているとします。板状の部位の4つの穴がボルトによって固定されているとして,拘束条件は図の着色した面を固定とします。
関心事は最大相当応力点の位置と応力値で,どこかの応力集中点で発生するでしょう。しかし,手計算でその応力を求める必要はありません。手計算結果との比較では,求めやすい場所の変位や応力で比較しましょう。
今回は図3に示す先端のD点の変位と断面A-AでのB点とC点の応力について,有限要素法による計算結果と手計算による結果を比較します。
図3に変位図,図4に相当応力図を示します。D点の変位は0.268[mm],B点の相当応力は32.4[MPa],C点の相当応力は52.6[MPa]となりました。
このブラケットを片持ちはりと考えて計算します。はりの断面は図3の断面A-Aの形状としこれを図6に示します。図6の断面を持つ片持ちはりの先端の変位と断面A-Aの応力を求めます。
手計算の計算過程と結果を図7に示します。D点の変位は0.141[mm]となり有限要素法結果とオーダーが一致しました。B点,C点の応力は41.2[MPa]となりこれも有限要素法結果とオーダーが一致しました。
以上のような過程を踏むことで,解析ソフトをブラックボックスとして扱っていることによる間違い(入力する材料定数の単位系の間違い,形状モデルの長さの単位の間違い,境界条件の設定間違い,間違った解析アルゴリズムの選択)がないことを確認できます。
V&Vの妥当性確認では,クロスチェック解析(異なる解析モデルやシミュレーションソフトによる解析結果と比較する)や使用する要素を変えた解析を要求しています。本サイトで公開している二次元ビーム要素解析ソフトを使って計算してみましょう。異なるシミュレーションソフトを使っていることになりますのでクロスチェック解析に相当し,上述した有限要素法による計算ではソリッド要素を使っていますが二次元ビーム要素解析ソフトではビーム要素を使いますので,使用する要素を変えた解析にも相当します。
図7に解析モデルを示します。数字(1,2,3,...)が節点番号,丸数字(①,②,③,...)が要素番号です。B点が節点番号10,C点が節点番号3,D点が節点番号13です。
節点1と節点6のX方向変位,Y方向変位,回転を拘束しています。節点13にY方向荷重-10000[N]をかけています。
図8に計算結果を示します。B点の応力は引張で32.7[MPa],D点の応力は圧縮で-57.9[MPa],D点の変位は0.212[mm]となりました。
表1に有限要素法と二次元ビーム要素解析ソフトの計算結果の比較を示します。両者の差は応力で約10[%],変位で約20[%]でした。
1)泉,酒井,理論と実践がつながる 有限要素法シミュレーション,森北出版,(2010)
仮想仕事の原理 を追加しました。